作品から商品へ 気になる今後の制作環境は?

真狩:それはさておき自主制作において、アニメーションはアニメよりも映画祭やコンテストで注目されることが多いですね。たびたび話に出てきたように、見里さんは映画祭やコンテストから制作のオファーにつながっていきました。

見里:そういう話を色々ともらえるようになったのは、映画祭の存在が大きいと思います。応募したことによって、巡り巡って色んな人に知れ渡って仕事の相談が来るようになりましたから。

京橋のアートスペースキムラでやっているASK?映像祭で『あたしだけをみて』が大賞を獲った時は、WIT STUDIOと知り合うことになりました。大賞を獲った翌年に個展ができるんですけど、その時に来てたんですね。藝大院の修了後に何かできたらということで今に至ります。

一方で『モルカー』を作ることになるシンエイ動画とは『マイリトルゴート』で色んな賞を獲っているうちに知人を介して知り合いました。それから「オリジナルコンテンツを作ってほしい」という依頼になります。

『モルカー』は先ほど話したように藝大院で企画していた中の1つで、シンエイ動画には5つくらい案を出した中で目に留まったというところです。ただその時は映画祭に応募する短編のような感じで考えていたんですけど、「子供向けとして大勢の人の目に触れる作品にしたい」というアドバイスからシリーズものになりました。ちなみに『モルカー』の制作現場も、『あたしだけをみて』の制作で使った自宅の横にあるアパートです(笑)。

真狩:この1年『モルカー』の話は色々とあちこちで出ていましたし、発売になるアートブックも読んでみたいですし、聞いてみたいこととしては……。放送順はオーダー通りだったんですかね?ネットの反応を見て変えるとかなかったんですか?

見里:放送順は決めたままで、タイトルも変えてないですね。あらかじめ12話分を納品していました。2Dだと放送当日に納品するとかあるじゃないですか。コマ撮りだと無理ではないかと思います。

とらうとさぁもんさんの更新に高木さんも反応。
放送に追いついたところでタイミングがバッチリ

真狩:偶然だったんですね……!とらうとさぁもんさんのTwitterマンガ『モルカーにジョイマンが出演した回』から、ジョイマンの高木(晋哉)さんが「どっきり スッキリ」とツイートするまでの流れが見事にカッチリとハマったのは奇跡的でした。

それから当映画祭で実施していた「モルカー人気投票」の話を忘れるところでした。3位はTwitterの字数制限で一部を割愛にしていたので、この場で補足しますと第2話の「銀行強盗をつかまえろ!」に加えて、第8話の「モルミッション」と第10話の「ヒーローになりたい」も同数で並んでいます。

ネットでは第5話の「プイプイレーシング」より第9話の「すべってサプライズ」が人気になってきていて、そのまま1位として反映されたような感じです。再放送で毎回サブモルカーが紹介されてたのもありそうです。

見里:そうですね。徐々にサブの名前とかが明かされていってたので。それを見たことによって、作品の見方が変わったのかもしれないですね。最終話の「Let’sモルカーパーティー」もサブが多いんですけど、「すべってサプライズ」は最初にサブが多く登場した回だからでもあるんでしょうか。

真狩:ヒットしたので商品監修も大変そうだなと思ってました。実際どうでしょう?

見里:ぬいぐるみの監修とかをやっていて、上がってきたものをチェックして返していくのに時間がかかりました。それでも徐々にシンエイ動画と外観の共有ができていくことによって、自分での監修の頻度は減っていきました。ゲームの場合は3Dモデルの監修もしてますけど、それは入念にやったりしましたね。

3Dのモデルデータは360度でクルクル回転させるものではなく、画像で来たものにPhotoshopで赤入れして戻しています。ぬいぐるみの場合は、縫い目の形でどうしても再現できない部分とかできてしまったりする一方で、3Dの方が比較的に形の修正がしやすくて楽だったような気がします。

「プイプイレーシング」に登場した元ネタの元ネタ。
これが左右反転されるなどした動画が拡散していった

コマ撮りと2Dとの連携 今後ARを使うとしたら?

真狩:続いてWIT STUDIOで制作した『Candy Caries』なんですけど、映像と楽曲どちらが先なんですかね?歌詞が内容とあっているので……。それと『Candy.zip』でやり残したことがあって作ってみたとか?

見里:映像が先です。やまだ豊さん(注:『東京リベンジャーズ』劇伴など)が本当にいい感じに曲を当てはめてくれたので、さすがだなと思いました。『Candy.zip』がというよりも、企画内容がプラ板にあっていたからですね。物語や世界観において、素材との必然性があるかまで考えているつもりなので。

『あたしだけをみて』を映画祭に出していた時に、審査員から「羊毛フェルトじゃなくてもいいんじゃないか」と聞かれたこともありました。確かにそうだなと思って、同じような理由から『Candy.zip』ではプラ板をキャンディーに見立ててみたんです。なので素材と物語の必然性は今後も大切にしていきたいと思いました。

『Candy Caries』で挑戦したのは『Candy.zip』でもやっていたプラ板を使ったカットアウトに、2Dを融合させることでもありました。WIT STUDIOでの制作ということで力を借りて、コマ撮りだけでは限界のある演出を2Dでカバーしてもらった感じです。

真狩:そういえば見里さんはTVPaint Aninationも持ってましたね。WIT STUDIOは2DでTVPaintを使っているので、制作するに当たって相性が良さそうだとも思いました。

見里:TVPaintを買ったのは『マイリトルゴート』の制作中なんですけど、絵コンテやVコン(ビデオコンテ)のためですね。2Dで作ることになっても、すぐプレビューができるので便利だと思いました。『あたしだけをみて』も最初は2Dで作ろうとしていた時があって、別のソフトで作画して布にチャコペンで写して色を載せていました。コンテに関してはStoryboard Proにも興味はあります。

TVPaint Animation

TVPaint Animationより。左メニューの
アニマティクスはVコンのことを意味している

真狩:てっきりコマ撮りに使うことも考えて買ったのかと思ってました(笑)。カメラをつなげるのでDragonframeみたいな使い方もできますし。アナログのカットアウトと2Dの融合としては、デジタルでもLive2Dとかのカットアウト系ソフトも使ったりできると思いますけど、どうですかね(注:デジタルのカットアウトは、ゲームではパーツアニメーションと呼ばれている)。

見里:TVPaintはコマ撮りにも使えるんですね……!デジタルとの融合に関しては、コマ撮りではできない表現ができるのであれば積極的にやっていきたい気持ちはあります。でもコマ撮りでやると負担になるのを補うかたちでは使いたくないですね。手で動かして魅力になっているところをデジタルで処理してしまうともったいないので。

アナログであるがゆえに大変そうだと思ってもらえるのは、ある意味コマ撮りが得している部分でもあると思うんです。つまり作者の熱量の見せどころとしてコマ撮りが役に立っていると思うので、別のデジタル処理で手を抜いているように見られないように気をつけたいです。

真狩:2Dと作業するに当たっては、タイムシートを覚えるべきかどうかという問題もあります。ただ自主制作してきた人はVコンから始めますし、それを見てもらえば分かりますよね。

見里:タイムシートは覚え切れてないですね。演出は全て自分で指示しているので、Vコンを作っていく上でもタイムシートは使ってません。Dragonframeに読み込んだVコンを見ながら撮影していくだけですし。今後ちゃんと対応していかないといけないのかもしれないですけど。

実写やコマ撮りで演出するなら、位置関係は
3Dキャラが人物や人形、手がVコンということに

真狩:あらためてWIT STUDIOに所属したことで、2Dだけでなく3Dの制作環境も試せるようになっています。

見里:そうですね。それによって制作の幅を広げて規模の大きいコマ撮り作品を作っていけたらいいなと思っています。

真狩:3DというとVRとかでメタバースが喧伝されているところで、VRをワークスペースとして3Dの作業と同じように2Dの作業が内部で行われるような例も増えてきていますね。アバターを使うかどうかは別として。

その一方でARだと実写やコマ撮りでも使えるので、人形の後ろにVコンを表示してロトスコープもできます。ロトスコープというと2Dでトレースする話が主で、3Dでもモデリングやアニメーションで使えるのが知られてなかったりしますけど。

見里:ARでコマ撮りですか。ロトスコープだとアニメーターがアドリブできなくなると思っています。撮影の最中に手前より奥にある人形の動きを、アニメーターの思いつきに任せてみたら喜んでもらえました。アニメーターもモチベーションを保てないでしょうから、工場のようにならずにアニメーター自身も楽しめて、発見や遊びも取り入れていけたらいいですね。

真狩:スマートグラスのように身につけても重くないデバイスが普及したら、使い勝手が良くなるかもしれませんね。ロトスコープとは言わないまでも、各々の人形と一緒にVコンをシーンやカットごとに配置してアニメーターに動かしてもらうこと自体は、演出意図の共有として楽になるはずなので。

見里:3Dと同じになってしまわないかちょっと不安ではあるんですけど、便利にはなるだろうなとは思いました。ただ便利さに頼りすぎないようにバランスは取りたいところです。位置情報を把握できてるというのであれば、地震で人形が倒れたりセットが崩れたりするのを恐れなくてすみますし、コマ撮りの可能性は広がるんだろうなとは思います。

最後にこれを。3DソフトのMayaでアームを制御、
写真はDragonframeに読み込んでいる(2016年当時

真狩:色々と話せて有意義でした。ありがとうございます。それでは最後に、今後に向けたコメントを宜しくお願いします!

見里:このたび監督特集というかたちで、まとめて自分の作品を上映してもらえたのは、福岡インディペンデント映画祭が初めてだったのではないかと思います。それに関しては良い経験になりまして、感謝しています。今後も見る人を飽きさせない作り方にこだわっていきたいですし、色々な面白さとかメッセージを作品で届けていけるようにしたいと思っています。

『モルカー』も当時ここまでヒットして人気になるとは思っていなかったので、商品展開までしてもらえて、現実味が結構ないような状態ではあります。ファンの人たちに色んなモルカーを作ってもらえたことにも可能性を感じました。今後も機会をもらえれば作りたいと思っていますので、応援お願いします!

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